第65回近畿産業衛生学会

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こんにちは。関西産研のHP担当です。

2025年11月8日(土)に、大阪・ドーンセンターで開催された第65回近畿産業衛生学会に参加しましたので、その様子を報告いたします。本学会は、関西産業保健研究会(関西産研)も後援団体として参画しています。西田和彦先生(長谷エクリニック)を学会長を務められており、「生涯現役社会に向けた産業保健の取り組み」をテーマに、就労と健康管理について多角的な議論が行われました。

教育講演では、山本浩一先生(大阪大学大学院 老年・総合内科学)より「人生100年時代の就労と健康:中高年労働者における血圧管理と産業保健の役割」が講演されました。高血圧は心血管疾患リスクの中核であり、2025年改訂の治療ガイドラインで示された「年齢にかかわらず130/80mmHg未満」を目標とした管理の重要性が解説されました。また、就労中の血圧変動が転倒や事故のリスクとなること、カフレス血圧測定を可能にするウェアラブルデバイスを活用したリアルタイムモニタリングの研究、運動習慣の維持・向上による血圧・サルコペニア・フレイル予防など、デジタルヘルスとライフステージに応じた個別化支援の展望が示されました。

基調講演では、財津將嘉先生(産業医科大学 高年齢労働者産業保健研究センター長)が「生涯現役を支える身体バランス:労働災害の疫学が示す未来」をテーマに登壇されました。休業4日以上の労働災害のうち、高年齢労働者の転倒災害が全体の4分の1以上を占め、しかも約半数が廊下や通路などの“平坦な場所”で起こっているという疫学データが提示されました。高血圧や糖尿病、脂質異常症、睡眠・身体活動・喫煙などの生活習慣要因が転倒リスクと関連すること、エイジフレンドリーガイドラインに基づく職場改善の実際、会場での片脚立位やバランスボード体験を通じてバランス低下を体感する「バランス王決定戦」など、知識と体験を組み合わせた印象的な講演でした。

シンポジウム「生涯現役社会に向けた女性への産業保健の取り組みを考える」では、西田和彦学会長と安田恵理子先生(大阪歯科大学)の座長のもと、女性のライフステージに沿った支援について議論が深められました。基調講演の赤羽和久先生(赤羽乳腺クリニック)からは、乳がん患者の長期治療と就労継続を両立させるための診療体制の工夫や、「経済毒性」を踏まえた離職防止の重要性、主治医意見書や地域医療連携パスを用いた支援実践が紹介されました。続いて、高木智子先生(コーセーライフ&ウェルネスサポートセンター)は、女性社員が多数を占める企業での産業保健師の取り組みとして、月経・更年期症状とプレゼンティーズムの関連調査、ライフステージ別教育、男性社員・管理職向け研修、「生理体験イベント」などを通じた職場風土改革について報告されました。最後に安田恵理子先生からは、「妊婦から始まるお口の健康~産業保健が要(かなめ)~」として、妊娠期の口腔ケアが母体・児の健康に及ぼす影響、産業保健と歯科医療の連携の必要性が示され、女性の健康支援を多職種で支える視点が共有されました。

また一般演題では、関西産研幹事の黒木和志郎先生が、「当社における産業保健支援の形態と健康リスクの関連―久山町研究リスクモデルを用いた横断研究―」において、健康管理室や分散型支援などの産業保健スタッフによる健康支援は、健康リスク低減と関連することを大規模データで示し、産業保健支援体制の有効性を明瞭に可視化した点が評価され、優秀演題賞に選出されました。

第65回近畿産業衛生学会を通じて、「生涯現役社会」を支えるためには、高血圧や転倒災害といった中高年の健康課題に正面から向き合うことに加え、女性特有の健康問題や治療と仕事の両立支援を含めた包括的な産業保健体制づくりが不可欠であることが改めて示されました。今後も関西産研として、今回得られた知見を日々の実務と研究に活かしていきたいと考えています。

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